これからの在宅医療と経営指標
これからの在宅医療と経営指標
これからの在宅医療
人生最期の時をどこで迎えたいか考えたことはあるだろうか。
近年の厚生労働省のアンケートによると、国民の60%が自宅で最期を迎えたいと回答している。住み慣れた場所で近しい家族とともに過ごしたいという想いは自然なことであるが、上述のように、自宅で過ごしたくても病状や療養環境の問題で医療機関や施設での療養を余儀なくされる方が多く、想いを叶えることができないの現状である。
そこで、これまで病院などの入所施設でやってきたことを、できる限り在宅医療を中心に展開して、地域で暮らせるようにしたのが地域包括ケアで、日常生活圏域で、「住まい」「生活支援」「医療」「介護」「予防」という5つのサービスが、利用者のニーズに応じて適切に組み合わされて、入院、退院、在宅復帰を通じて切れ目なく一体的にケアサービスが提供されるサービスを政府が作り上げようとしている。
地域包括ケアの目的は、多職種が連携することではない。連携するのは当然のことで、「住み慣れた地域で最期まで当たり前に暮らす」という1人ひとりの願いを実現するために連携するのである。
そして、最期まで地域で暮らすということは、地域や家族の力で”看取る”ということでもあり、病気を治す治療から、支える・見守る医療と介護へと大転換しなければならない時が来ている。
在宅医療のゴールは、「患者が最期まで家で安心して過ごせること」であり、医療の領域に留まらず、医療と介護が緊密に連携した仕組みが大事で、これが社会にあまねく展開することが望ましい。
通院や入院が主体であった医療から、自宅にいながら診療を継続するシステムが徐々に構築されつつあり、在宅医療はその中心となる役割を担う。
在宅医療は身体機能の低下や重度の障害などにより医療が必要であるにも関わらず医療機関への通院が叶わない患者 (主に75歳以上)が対象となる。高齢者医療は生活習慣病や老化に伴う障害がほとんどで、手術などを要せず、在宅医療で診療をまかなうことができれば、医療費の削減という点でも大きな意味を持つ。
自宅で最期を迎えたいと希望する方の割合は増えているが、実際はまだ環境が整っているとはいえない。しかし、数年前から比べれば着実に「最期の場所」を選べるような社会へちかづいている。
そのためにはICTを活用した多職種連携や患者とのやりとりを円滑に行える仕組みづくりが大切で、コミュニケーション・ツールの拡充が在宅医療サービスの質の向上へつながり、ひいてはQOLへつながる。
日本人の人を思う気持ちや、チームで患者を診る在宅医療の仕組みは非常に素晴らしいものなので、効率的なITサービスに期待したい。
在宅医療の経営理念
クリニックの経営理念を誰にでもわかりやすいよう、言語化することは、開業において「何をしたいのか」「どのようにしたいのか」といったクリニック全体の共通の価値であり、その地域社会に対してどのように役に立つかを表す決意になる。経営理念は対外的にクリニックの特長になり、スタッフに対しては行動原則の指針にもつながる。
数多くある在宅訪問クリニックのなかから自院を選択してもらうために、在宅医療に取り組む理念を明確にする必要がある。
在宅医療は経済的な理由のみで続けられるほど甘い世界でないため、医師人生をかけて取り組む価値があることなのか。自分の理念を明確にすることが大切である。
理念を明確にするにあたり、次の3つの質問に答えることでまとめやすくなる。
「在宅医療を通じて医師として患者さんとご家族にどのようなことができるのか?」
「在宅医療を通じて医師として何を得ることができるのか?」
「在宅医療を通じて地域医療にどのように貢献していくのか?」
この3つの質問に答えることは難しいことかもしれないが、理念を明確にすることで在宅医療を継続して取り組む動機づけとなり、情熱を燃やし続けることにつながってくる。
コンセプト
理念に加えて自院の特徴を明確にして伝えることも大切で、いくら立派な理念があっても具体的にどんな特徴があるのかが明確でなければ在宅患者の紹介を得ることは不可能。
自院の特徴の事例として「24時間対応可能」「末期がん患者の在宅ホスピス対応可能」「人工呼吸器・気管切開・胃瘻などが必要になった重度障害の患者にも対応可能」など、他院との違いを生み出す特徴を打ち出す。また、小児の呼吸器の在宅医療や難病患者の在宅医療対応など他院では敬遠される(診ない)患者さんを診るというニッチな分野をフォローすることでも大きな特徴となり得る。
そして、その特徴を裏付ける実績を数値で示すことが重要で、例えば、「末期がん患者を今まで何人看取ったのか」「難病患者を在宅でフォローした人数」などを数値で示し特徴を裏付ける根拠をまとめておくと分かりやすくなる。あるクリニックの事例では、地域で在宅医療に携わる看護師やソーシャルワーカーの勉強会で自分の在宅医療についての理念と自院の特徴を伝えたところ、「この医師であれば患者さんを任せることができる」と、数人の在宅患者の紹介を受けたそうである。
在宅医療中心の診療所
2016年度診療報酬改定では、外来機能を持たない在宅医療専門診療所が制度化された。これにより、在宅患者割合が95%以上の無床診療所は在宅医療専門診療所とみなされ、在宅療養支援診療所を届け出る場合により高い施設基準が課せられた。
「在宅医療を専門に行う在宅療養支援診療所とするのか」「訪問診療・往診を中心に取り組む在宅療養支援診療所とするのか」の意思決定が必要で、在宅医療を専門に行う在宅療養支援診療所の開設要件は要件のハードルが高い。総患者数の5%以上を外来患者とする訪問診療・往診を中心に取り組む在宅療支援診療所の開業を勧める。
開業地
在宅医療の開業地は内科、小児科、眼科などの診療科を標榜するクリニックと異なり、立地が最重要とは断定できない。現状の需要だけで市場性を評価するのは難しく、競合がいない地域は在宅医療の文化が根付いていない見方もある。
新規開業の立地選定に当たって最も大切なのは、院長自身が長く貢献したいと思える地域を選ぶことだ。在宅医療は外来診療と異なり、患者が直接来院するというよりは、連携先(病院や訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターなど)の紹介で診療につながることが多い。そのため、地域の医療機関や介護事業者との密な連携が求められる。その地域に愛着を持ち、自身の理念を地域の医療機関や介護事業者と共有し、密に連携できるかという視点を大切にしたい。
集患の観点でいうと、外来医療中心の診療所ほど立地や外観などの視認性は重視されない。そのため、駅から離れた住宅街など賃料の安い立地が選ばれるケースも多い。
在宅医療中心の診療所は、外来医療中心の診療所に比べると重厚な内装や設備を必要とせず、開業できる。
診療圏
移動時間は医療機関から20分以内が目安で、大都市部では半径3~4kmで十分な需要が見込める。地方では半径16km内を診療圏としている医療機関が多い。 東京都の中心部では半径3km圏内の人口が40万人、半径5km圏内では100万人を超えている。
在宅医療の経営指標
在宅医療の経営において、最も重要なKPIは医師1人で1日当たりの訪問件数で、最適な数は1日8~12件である。内科外来で1日に診る40人と同様の収入を上げるのに、在宅医療では1日7,8人となる。圧倒的に在宅医療の方が収入面では優位に立てる。
KPIとはKey Performance Indicatorの略で、日本語に訳すと「重要業績評価指標」という意味で、目標・ゴールに対する達成の度合いを測るために置かれる指標のことで、目標の達成を目指すには、その進捗の具合を把握するため、KPIとして定量的な指標(数値など)を設定することにより、現在地や達成までに必要な工程を、正確に把握できるようになる。KPIはいわば、中間目標であり、それを目標に掲げることで、KGI(Key Goal Indicator)重要目標達成指標に到達するゴールが見えてくる。
目標患者数=1日当たり訪問件数×月間稼働日数÷1患者あたり 月間訪問回数 損益分岐点は4件で、それを超えると黒字と予測がつき、12件を超えると医師の負担が増して患者満足度や医師のモチベーションが下がることも考えられるため、自分に見合った件数を導きだすことが大切である。